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静岡地方裁判所 昭和56年(行ウ)18号 判決 1985年4月26日

原告 大和団地株式会社

被告 函南町長

主文

一  被告が原告に対し昭和五六年三月三〇日付でした昭和五一年度から五五年度までの各年度分の特別土地保有税にかかる過少申告加算金の賦課決定は無効であることを確認する。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを二〇分し、その一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  主位的請求の趣旨

(一) 被告が原告に対し昭和五六年三月三〇日付でした昭和五一年度から同五五年度までの各年度分の特別土地保有税の更正及び過少申告加算金の賦課決定は、いずれも無効であることを確認する。

(二) 訴訟費用は被告の負担とする。

2  予備的請求の趣旨

(一) 被告が昭和五六年三月三〇日付で原告の昭和五一年度から同五五年度までの各年度分の特別土地保有税についてした、更正のうち昭和五一年度分について税額一八七万二九三〇円を、同五二年度分及び同五三年度分について税額一一〇万四八八〇円を、同五四年度分について税額一〇六万四八八〇円を、同五五年度分について税額一〇四万六七二〇円を各超える部分並びに過少申告加算金の賦課決定を取り消す。

(二) 訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、昭和五一年度から同五五年度までの各年度分の特別土地保有税を左記のとおり申告納付した。

年度

申告納付した税額

課税対象土地

昭和五一年度分

一八七万二九三〇円

別紙物件目録(一)のとおり

同 五二年度分

一一〇万四八八〇円

同目録(二)のとおり

同 五三年度分

一一〇万四八八〇円

右同

同 五四年度分

一〇六万四八八〇円

右同

同 五五年度分

一〇四万六七二〇円

右同

2  被告は原告に対し、昭和五六年三月三〇日付で昭和五一年度から同五五年度までの年度分の特別土地保有税を一三一六万一二二〇円とする更正及び過少申告加算金を六五万七九〇〇円とする賦課決定(以下「本件各処分」という。)をした。

3  原告は、昭和五六年五月二五日、本件各処分につき被告に対し異議申立をしたが、被告は同年六月二〇日右異議申立を棄却する旨の決定をし、同決定書は同月二二日原告に送達された。

4  しかしながら、原告は右1の申告した土地の他には函南町において所有もしくは取得していないので、本件各処分は無効である。仮に無効でないとしても、取消は免れない。

5  さらにまた、本件各処分には以下の手続違背があり、右手続違背は重大かつ明白な瑕疵であるから本件各処分は無効である。仮に、無効事由に該らないとしても、取消は免れない。

(一) 被告は「特別土地保有税(保有分)の修正決定について(通知)」と題する書面(以下「本件書面」という。)をもつて本件各処分をしたが、地方税法第六〇六条第二項に基づく決定は無申告の場合になされるものであり、同条第一項に基づく更正処分とは異なるし、同法上修正決定なる処分は存在しない。

また、本件書面には不申告加算金とあるが、過少申告加算金は同法第六〇九条第一項に、不申告加算金は同条第二項に、それぞれ基づき徴収されるもので、両者は根拠条文、要件を異にするから、本件書面をもつて、過少申告加算金の賦課決定がなされたとはいえない。

(二) 特別土地保有税の更正及び過少申告加算金の賦課決定をなすについては、地方税法第一条第一項第六号が準用されるので、課税対象土地を地番地積によつて特定明示したうえ、当該課税客体毎の課税標準額等を明示しなければならないところ、本件書面には納付すべき金額、不申告加算金額及び合計納付額が一括して記載されており、各年度毎の課税対象土地、課税標準額、税額の記載がなされていない。

(三) 地方税の課税の直接の法的根拠は、自治体の制定する条例にあるから、自治体において、通知書の記載要件等地方税法第六〇六条第一項に規定する更正の手続を定める条例もしくは規則を制定しなければ、更正処分そのものを適法に行うことはできないと解すべきところ、昭和五六年三月三〇日当時被告において更正の方式及び通知書の記載事項等更正の手続を定める条例もしくは規則を制定していなかつた。

6  よつて、原告は主位的に、本件各処分が無効であることの確認を求め、予備的に、本件各処分の取消を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1ないし3の事実を認める。

2  同4の事実を否認する。

3  同5の事実のうち、被告が本件書面をもつて本件各処分をしたことは認めるが、その余は争う。

三  被告の主張

1  課税の根拠

(一) 原告は日本電建株式会社(以下「日本電建」という。)から昭和四七年七月三一日別紙物件目録(三)の土地(以下「本件土地」という。)を代金三億一五二二万五〇〇〇円で買い受けた。従つて、原告は本件土地の所有者であるから、地方税法第五八五条第一項に規定する特別土地保有税の納税義務者である。

(二) 本件各処分の根拠は別紙(一)、(二)のとおりである。

2  本件各処分の手続の適法性

(一) 本件各書面には、原告主張のとおり修正決定及び不申告加算金との記載があるが、これらは表現の誤りで、それぞれ更正、過少申告加算金の意味であることは明らかである。

(二) 更正及び過少申告加算金の賦課決定の通知については、そもそも地方税法上方式及び記載要件について何ら法定されていない。また本件各処分前に原告に対し送付した昭和五六年二月二四日付書面において課税対象土地が明示されており、本件書面とともに送付した特別土地保有税の修正申告書五通には、各年度毎に課税標準額、税率及び納付すべき税額等が記載されている。

四  被告の主張に対する認否及び再反論

1  被告の主張1の事実のうち、売買契約が締結されたことは認めるが、その余の事実は否認する。

右売買契約締結の際、本件土地の所有権移転を次のような条件にかからしめる旨特約されていた。すなわち、本件土地は農地であり、日本電建が昭和四五年六月一六日事業者を同人とし、「建売住宅用土地」とする条件で農地法第五条第一項の規定に基づく農地転用のための所有権移転の許可を受けた。日本電建は宅地造成工事未完成のまま、「宅地分譲用地」とする目的で本件土地を原告に譲渡することを約し、その際、日本電建が、原告との連名で、「建売住宅用地」から「宅地分譲用地」への事業計画の変更及び日本電建から原告への事業者の変更につき、許可権者たる農林水産大臣に申請し、その承認を受けたときに本件土地の所有権が移転する旨特約した。原告は昭和五六年一一月一一日日本電建に対し、農林水産大臣あて事業計画変更申請書を作成交付し、捺印を求めたが、日本電建は現在に至るも右申請書に捺印しない。以上のとおり、原告は本件土地の所有者ではない。

2(一)  同2(一)の主張は争う。

(二)  同2(二)の事実のうち、修正申告書五通の記載内容は認めるが、その余は争う。

昭和五六年二月二四日付書面や本件文書と一体であることを示す契印もなく、納税義務者が作成すべき修正申告書をもつて、本件各処分の瑕疵を補充することはできない。また、昭和五一年度ないし同五三年度の修正申告書には課税対象土地として「地番六八七~七外、六七六~一外」と、同五四年度及び同五五年度の修正申告書には「柏谷字池之内、地番六八七~七外、六七六~一外」と記載され、本件土地を具体的に表示しているとはいえない。また課税標準額を本件土地の取得金額三億一五二二万五〇〇〇円とのみ記載し、本件土地の各筆毎の個別の取得金額を記載していない。のみならず、取得合計額自体も三億五一六三万五五〇〇円であるところを、右の如く誤記している。

第三証拠関係〈省略〉

理由

一  請求原因1ないし3の各事実はいずれも当事者間に争いがない。

二  本件各処分の課税根拠について検討する。

1  原告の本件土地の所有について

(一)  原告が日本電建との間において、昭和四七年七月三一日本件土地を買い受ける旨の売買契約を締結したこと自体は当事者間に争いがなく、原本の存在については争いがなく、その成立については、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき甲第三号証、原本の存在については争いがなく、証人中原肇の証言により成立の認められる甲第四号証、原本の存在及びその成立に争いのない乙第一ないし第三号証、成立に争いのない乙第四号証に、証人中原肇の証言の一部を総合すれば、次の事実が認められる。

本件土地はもと大半が登記簿上の地目田であり、水田として耕作地に使用されていたが、日本電建がこれらを昭和四四年に買受けて建売住宅用地として造成することを計画し、同年一二月二〇日農地法第五条所定の許可申請手続をするとともに(昭和四五年六月一六日用途・建売住宅用地として許可)、昭和四四年一二月二五日静岡県より宅地造成に関する許可を得、そのころ宅地造成工事に着手した。土盛工事が終了した段階で、原告は日本電建との間において昭和四七年七月三一日本件土地を宅地分譲の目的で買い受ける旨の売買契約を締結した。売買代金については、一応三億一五二二万五〇〇〇円とし実測を行つた結果面積に増減を生じた場合三・三平方メートル当り二万五〇〇〇円の割合をもつて精算する旨約定されていたが、実測のうえ昭和四八年一月二四日三六四一万〇五〇〇円増額する旨確認された。原告は日本電建に対し右売買契約成立時に代金の一部二億五二一八万円を、昭和四八年七月三一日残金九九四五万五五〇〇円をそれぞれ支払つた。原告は同年一月から昭和四九年一月までの間に宅地分譲のため本件土地につき整地工事、道路工事、上下水道設置等の工事を行つたが、その後本件土地内の下水道マンホールを設置した六六か所の地点を選んで、昭和五四年五月一二日まで一四回にわたつて継続的に地盤の変化状況を観測したところ、右時点までに三五センチメートル以上一〇〇センチメートル以下の沈下がみられた個所が三一か所(うち五〇センチメートル以上が二七か所)もあり、現在に至るも沈下現象は止まらず宅地として分譲することは不可能な状態にある(本件土地の登記簿上の地目は、すべて昭和四九年一一月八日宅地に変更されているが、登記簿上の所有名義及び農地法第五条所定の許可申請名義は日本電建のままとなつている。)。

(二)  原告は、前記売買契約締結の際、原告と日本電建との間において、建売住宅用地から宅地分譲用地への事業計画の変更及び日本電建から原告への事業者の変更につき農林水産大臣に申請手続をしその承認を受けたときに本件土地の所有権を移転する旨特約したにもかかわらず、日本電建は右申請手続に協力せず右の承認を得られないので、本件土地の所有権はいまだ原告に移転していない旨主張し、証人中原肇は右主張に沿う供述をしているけれども右供述は右特約が本件土地の売買契約書に記載されていないことに照らし措信できないし、他に右特約の存在を認めるに足りる的確な証拠はない。そして前記二1(一)認定のとおり、本件土地について農地法第五条に基づく許可がなされたうえ、土盛工事が終了し非農地となつた状態で、原告が日本電建より買い受け、すでに売買代金を完済し、登記簿上も宅地に地目変更されているのであるから、原告が本件土地の所有権を取得したことは明らかである。もつとも、前掲甲第三号証によれば、本件土地にかかる農地法第五条の規定による許可には「許可申請書に記載された事業計画に基づき事業の用に供しないときは本許可を取消すことがある」との条件が付されていることが認められるが、弁論の全趣旨によれば、現在に至るまで農地法第八三条の二に基づいて事業計画や事業者の変更の承認を得ていないことを理由に許可が取消されたり、原状回復命令が出されたりしてはいないことが認められるので、許可に右の条件が付されており、かつ事業計画や事業者の変更の承認を得ていないからといつて、原告が本件土地の所有権を取得するについて何らの影響もない。

2  更正による税額について

弁論の全趣旨によれば、昭和五一年から同五五年までのそれぞれ一月一日現在において、原告の所有する土地のうち本件各土地を除く他の土地の取得額及び固定資産税の課税標準となるべき価格の合計額、本件各土地の固定資産税の課税標準となるべき価格の合計額が被告の主張1(二)の別紙(二)のとおりであることが認められ、原告が昭和五一年度分ないし同五五年度分の特別土地保有税として申告納付した税額については当事者間に争いがないから、本件土地の取得額を売買契約締結時一応定めた金額(三億一五二二万五〇〇〇円)として計算すると、原告の更正による税額及び過少申告加算金の額は別紙(二)のとおり算出される。

三  原告の主張する本件各処分にかかる手続違背の点について検討する。

1  成立に争いのない甲第一号証、第二号証の一ないし一二、乙第六号証の一、第九ないし第一一号証、書き込み部分については証人室伏光男の証言により原本の存在及びその成立が認められ、その余の部分について原本の存在及びその成立につき争いのない乙第五号証、同証言により成立の認められる乙第六号証の二ないし一一、証人室伏光男の証言を総合すれば、以下の事実が認められる。

被告は原告に対し昭和五六年二月二四日付書面で、昭和五一年(ワ)第一〇〇一七号立替金請求事件、昭和五三年(ワ)第三五一一号反訴請求事件の判決(東京地方裁判所言渡)により原告が昭和四七年七月三一日日本電建から柏谷字池之内、池頭の土地を買い受けたことが判明した旨、これらの土地の特別土地保有税が申告納付されていないので昭和五六年三月一〇日までに昭和五一年度ないし昭和五五年度の修正申告納付をされたい旨、右期日までに修正申告納付しない場合には地方税法第六〇六条により更正する旨通知し、右書面に申告書及び納付書各五通を同封して送付した。ところが原告は右期日までに右特別土地保有税の修正申告・納付をしなかつたので、被告は原告に対し本件書面とともに、昭和五一年度から同五五年度までの各年度毎に課税標準額及び税額等を記載した特別土地保有税の修正申告書五通及び右各年度毎に本税額及び不申告加算金額を記載した領収証書及び納付書各五通を送付した。

2  原告は、特別土地保有税の更正の通知には、地方税法第一条第一項第六号に規定された納税通知書の記載要件が準用される旨主張するけれども、右規定は普通徴収の方法によつて徴収する地方税にかかる定めであり、ただちに申告納付の方法によつて徴収する特別土地保有税の更正につき準用されるものと解することはできないから、原告の右主張は採用できない。

また、原告は、更正の通知書の記載要件を定める条例もしくは規則が存在しない以上、被告は具体的に更正処分そのものを適法に行うことができないと主張するが、これも独自の見解であつて、採用できない。

3  本件書面には、修正決定と記載され、課税対象土地、各年度毎の課税標準額及び納付すべき税額の記載がないけれども、前記三1認定のとおり、本件書面に先立つて被告から原告に対し送付された修正申告納付を勧告する昭和五六年二月二四日付書面には、期日までに修正申告納付しない場合には地方税法第六〇六条により更正すると明瞭に記載されており、地方税法上修正決定なる処分があるわけでもないので、修正決定という表現が更正を意味するものであることは容易に判断できるというべきである。また、右の昭和五六年二月二四日付書面には「昭和五一年(ワ)第一〇〇一七号立替金請求事件、昭和五三年(ワ)第三五一一号反訴請求事件の判決により判明した」「昭和四七年七月三一日日本電建と売買契約があつた」「柏谷字池之内、池頭の土地」と表示され、前掲乙第一号証、第三号証及び弁論の全趣旨によれば、右本訴事件は日本電建が原告に対し、本件土地の売買契約により原告が本件土地の所有権を取得したのに、その旨の移転登記手続をしないため、日本電建が本件土地につき昭和四八年度から同五一年度まで賦課された固定資産税等の支払を求めるものであつて、日本電建と原告との間で昭和四七年七月三一日本件土地の売買契約書が作成されているのであるから、課税対象土地について原告に誤解の生じる余地はない。しかも前掲乙第六号証の二、四、六、八、一〇によれば、本件書面に同封された修正決定と手書の標題の付された定型様式の申告書五枚には、各年度毎の課税標準額、税率、算式、税額が記載されている(もつとも本件各土地の取得価額は売買契約締結時に一応定められた三億一五二二万五〇〇〇円の金額が採られている。)ことが認められる。以上の点に、本件書面が地方税法第一三条の定める記載要件を一応充たしていること、同法第六〇六条第四項の通知の方式について法定されているわけではないことを併せ考慮すると、本件更正には、効力に影響を及ぼすような瑕疵を認めることはできないから、その手続違背を理由に本件更正の無効確認又は取消しを求める原告の請求は理由がない。

4  次に、過少申告加算金の賦課決定についてみるに、本件書面には不申告加算金と記載されていることは当事者間に争いがなく、前掲乙第六号証の三、五、七、九、一一によれば、本件書面に同封された領収証書及び納付書各五通にも各年度毎の不申告加算金と記載されていることが認められるところ、不申告加算金は地方税法第六〇九条第二項に、過少申告加算金は同条第一項に、それぞれ基づき徴収されるもので、両者は根拠法条、要件、税率を異にするものであつて、本件書面の記載内容からして、右書面をもつて過少申告加算金の賦課決定がなされたとは到底解することができない。そして、右賦課決定の瑕疵は、重要な法規違反でありその瑕疵の存在も外形上、客観的に明白であるから、本件過少申告加算金の賦課決定は無効であるというべきである。

四  以上のとおりであるから、本訴請求は、過少申告加算金の賦課決定の無効確認を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、第九二条本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 高瀬秀雄 山崎勉 生島弘康)

物件目録(一)~(三)、別紙(一)、(二)〈省略〉

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